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「急ごう。野犬も多いからな…」
六承は村から少し離れた丘の上で村の疎らな明かりを振り返る。
呂赫の家が小さく見えた。
六承は呂赫から貰った火で灯した提灯で、足元を照らしながらゆっくりと歩いた。
多分、普段の倍は時間がかかるだろう。
朝に辿り着けなくても良い。
ただ、明日中に自分の事を待っている人々のところへ薬を届けたい。
六承はそう思いながら歩を進めた。
歩きながら、呂赫が言った言葉が気にかかっていた。
「良いか、出来ればここから三十里ほど行ったところに大きな楠がある。その下で休め。そこで朝まで眠るのだ。それでお前の未来は開ける。良いか必ず休むのだ。そこでゆっくり眠ってから咸陽へ帰れ」
呂赫はまたニヤリと笑い、戸を閉めた。
その楠の下に何があるのだろうか…。
六承はそう考えながら山道を歩いていた。
初夏といえども夜は冷え込む。途中、冷える身体に麻の布を一枚羽織った。
その日は幸い月が出ていた。
雲も出ていたので、その月は出たり隠れたりを繰り返すのだが、六承の足元を照らすには十分だった。
暗い山道を一人歩き続ける六承。
しかしその足取りは不思議と軽かった。
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