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六承は大きな楠を見上げていた。
「これか…呂赫さんの言っていた楠は」
呂赫の言葉を思い出しながら六承は楠の前に立っていた。
確かに葉が生い茂り、夜露もしのげる。
呂赫はこの下で休んで帰れと言った。
しかし六承にはまだ体力も残っている。
何故ここで呂赫が休めと言ったのか、その理由はわからない。
このまま咸陽へ急ごう。
そう思い六承は楠の下から、再び夜道を歩き出した。
夜明けまではまだ時間がある。
充分に朝には咸陽に辿り着ける。
しかし、六承は少し歩いたところで立ち止まり、楠を振り返った。
六承は、今来た道を早足で戻り、そして再び楠の下に立ち、肩で息をついた。
手に持った提灯を脇に置いて、麻の布に包まる様にして楠の下で横になった。
呂赫の言葉が何を意味しているのかはわからない。
しかしそれで自分の未来が開けると言うのならば、そうしてみよう。
それが自分に今出来る事ならば…。
六承は小さく自分を照らす炎を見ながらそう思った。
長い一日だった。
六承は今日一日の事を考えながら、いつの間にか眠ってしまった。
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