第一章 紅雀と青雀

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「ほら、聞かれてしまった様だぞ」 「そうだな、聞かれてしまったみたいだな」 老人たちは口々にそう言った。 六承はその老人たちの姿を見て、ただの老人では無い事はわかった。 「どうする。逃げるか」 「そうだな。逃げよう」 老人たちは歩かずに飛び跳ねながら六承から逃げる様に遠ざかった。 「待って下さい。老師」 六承はその場に土下座し、頭を地面に擦り付けた。 二人の老人は立ち止まり、ゆっくりと六承を振り返った。 「申し訳ありません。私は不覚にもお二人のお話を聞いてしまいました。その話は私の寿命がもうすぐ尽きると言う話で。その話を聞いてしまった私はどうすれば良いのでしょうか。海に帰るにせよ、土に帰るにせよ、それなりの覚悟が必要です。私は今、十五歳を少し過ぎたところです。そんな私にその覚悟は出来ません。何か私に知恵をお授け下さい」 六承は頭を下げたまま二人の老人にそう言った。 「面白い男じゃの」 「ああ、面白い男だ」 二人の老人はまた跳ねながら六承の前にやって来た。 「これ、少年、顔を上げてみろ」 「顔を上げてみろ」 六承はゆっくりと顔を上げた。 「聞かれたのでは仕方ないな」 「そうじゃの仕方ないの」 二人の老人はじっと六承の顔を見つめたままそう言う。 「儂らには残念ながら、人の寿命をどうこうする力は無い」 「そうじゃ、そんな力は無い」 二人の老人はそう言うと六承の前にしゃがみこんだ。 身体が柔らかく、しゃがみこむと小さく丸い塊の様に見えた。 六承は目を潤ませ、二人の老人を交互に見た。 「でもな、儂らはお前を待っている人々に薬を運ぶのをいつも見ておった」 「そうじゃ、見ておった、見ておった」 ニコニコと笑っている様な顔をしている、その二人の老人の顔は双子の様に生き写しだった。
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