第一章 紅雀と青雀

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「おい。おい。生きてるか…」 六承がその声を聞いたのが、気を失ってからどれくらい時間が経った頃だろうか…。 六承はゆっくりと目を開けた。 既に周囲は明るく、太陽は真上に近かった。 六承を覗き込む二人の男は、六承の事を生き倒れだと思っていた様子だった。 「おい。生きてたぞ…」 「大丈夫か、兄ちゃん」 六承は身体を起こした。 「はい。大丈夫です。もう朝ですか…」 六承は、やけに鮮明に覚えている夢を思い出しながら、周囲を見た。 呂赫に言われた大きな楠が六承の近くにあった。 「まったく、死んでいるのかと思ったぜ」 「そうだよ。よくこんなところで寝ていたな…」 二人の男が六承に色々と語りかけていた。 夢だったのか…。 そうだよな…。 そんな不思議な話ある訳がない…。 六承は周囲の眩いばかりの光を、目を細めて見ていた。 そして、六承は手に握った革の袋を見た。 夢…じゃない。 六承は急いで袋を開けた。 中には黒い小指の先程の薬が入っていた。 「萬能丹…」 六承は思わず呟いた。 「兄ちゃん…。大丈夫か」 「夜風に当たり過ぎておかしくなっちまったんじゃないか。」 「違ぇねぇ…」 二人の男はそう言いながら六承の前を去って行った。 六承は萬能丹の入った袋を見て笑っていた。 その声は道を行く人の足を止める程だった。
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