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「李門、李門はどこだ」
祭承は木簡に記した帳簿を見ながら李門を呼んだ。
李門は祭承の部下の一人だった。
祭承は咸陽の生まれで、今は江南の地で薬商を営んでいた。
兄たちもそれぞれ中国の各地で薬商を営んでいる。
祭承は海が好きで兄弟の元を離れ、一人南へ移住した。
この地で薬商を始めたのが約三十年前。
その祭承も今年、五十になる。
そろそろ自分の仕事を誰かに任せたいと考えていた。
「祭承様。李門さんは今、街の集まりに参加されています」
十五歳に満たない小僧は祭承に手を合わせた。
「そうだった。始皇帝巡行の話だったな。戻ったら私の部屋に来るように言ってくれ」
祭承はその小僧に手を上げて礼を言った。
ちょうどこの小僧の歳の頃だった。
祭承は咸陽の外れで、おかしな二人の老人と会った。
その老人たちにあと二週間の命と言われ、「萬能丹」と言われる仙人丹をもらった。
老人たちはその「萬能丹」を飲めば病をたちまち治す事が出来ると言う。
しかし病が治る過程で激痛を伴い、その激痛で命を落とす事があるとも…。
不思議な体験だった。
そして今も祭承は生きている。
祭承は自分の机に座り目を閉じた。
手には古びた革袋を持っていた。
百七粒の「萬能丹」がその袋に入っていた。
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