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三人は祭承の部屋から庭に出た。
月明かりで祭承の庭は明るく、池に浮かぶ丸い月は緩やかに波をうっていた。
「この世に万能なモノなど無いのだよ…」
祭承の後ろを李門と魏粛は歩いている。
「万能なモノなど無いのだ…」
二人は黙ったまま、ただ祭承の話を聞いていた。
祭承は十五歳のあの日、あの激痛に耐えた夜を断片的に思い出していた。
いや、断片的にしか思い出せない程の激痛だった。
「私はあの薬を飲んだ。死にたくないという一心であの薬を飲んだ。だが飲んだ後、後悔した。あの薬はどんな病でも治す。お前たちの言う万能薬かもしれん」
祭承は二人を振り返った。
そして目を見て続ける。
「しかしな、飲んでからその病が治るまでの間、病で罹っている患部が激痛に襲われる。私の場合はどうも肝臓が原因だったらしい。その激痛がどれだけ続いたかは覚えていない。途中で気を失ったからな…」
李門と魏粛の顔色は無かった。
祭承の顔を見るとその時の痛みが伝わって来る様だった。
「私は紅雀と青雀から百八粒の萬能丹をもらった。しかし今もあの萬能丹は百七粒ある。その意味…お前たちならわかるだろう」
祭承の額には汗が浮き出ていた。
「それだけ危険な薬だと…」
魏粛は眉間に皺を寄せていた。
李門も両手を固く握っている。
「その激痛に耐えうる者だけが、病を治し生き残れる。そんな薬なのだ。紅雀と青雀が言うにはその病の度合いで痛みの度合いも痛みの続く時間も違うらしい。そんな薬を他人に飲ませる事は私には出来なかった」
李門と魏粛は月を仰いでいた。
祭承の抱えていた葛藤が痛い程にわかった。
「それがいまだに百七粒残っている理由だ」
祭承は二人の肩を叩いた。
「祭承様。お気持ちはお察しします」
李門は祭承の顔をしっかりと見ていた。
「私も同じです」
魏粛も同じ様に祭承を見ていた。
祭承は二人を交互に見て、
「ありがとう」
とだけ言った。
「しかし何故、そんな話を私たちに」
「そうだな。これからが今日の本題だ」
そう言うと祭承は微笑んだ。
「部屋に戻ろう。酒の準備が出来ている筈だ」
三人は月明かりの庭を歩いて行った。
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