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翌日、李門の目覚めは良かった。
昨夜遅くまで祭承と魏粛と共に飲んでいた。
不思議な話を聞いた。
どんな病でも治してしまう仙人丹の話。
それを実際に飲み、今も生きているという祭承の話。
すべてが李門には別世界の話に聞こえた。
「私は引退する事にした」
祭承はそう言って酒を飲んだ。
「何故ですか。突然そんな話」
李門は驚きを隠せなかった。
その街で唯一の薬商である祭承の店はどんどん大きくなっていたのだ。
「いや…突然ではないのだ。前から決めていた事なのだ」
祭承は二人に微笑んだ。
「私は海が好きだ。だから、海の近くに家を建てた。そこで暮らそうと思っている」
そしてまた酒を飲む。
「しかし…」
魏粛も不安そうに声を震わせていた。
「今日の話の本題はこれだ。お前たちに店を任せようと思う…やってくれないか…」
少し酔った祭承はニコニコと笑いながら話していた。
李門と魏粛。
祭承が信頼できる二人の若者だった。
その二人に店を譲り自分は海の近くで隠居生活をしようと以前から決めていた。
祭承はこの街に来て何度も海を見に行った。
祭承が実際に見た海は青く、どこまでも続いていた。
河や湖とは違う、果てしない大海原が祭承を魅了した。
人は海から生まれたのだろう。
祭承は初めて海を見た日にそう思った。
「頼む。二人でこの店を続けてくれないか」
祭承は盃を卓に置いて二人に頭を下げた。
李門と魏粛も盃を卓に置いた。
「祭承様、頭を上げて下さい」
「そうです。我々にはもったいない話です」
二人は口々に言うと自分たちも頭を下げた。
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