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「あの」
健一は自分の横に座る男に聞いた。
「何でしょう」
「話がまったくわからないのですが」
健一は目を見開いて男を見た。
「ごもっともです。もうすぐ私のオフィスに着きます。そこで詳しくお話しします」
男はそう言うと健一に微笑んだ。
「ほら、そこですから」
車はある古びたビルの前で止まった。
「どうぞ…。中で話しましょう」
そう言うと男は車を下りた。
健一は男と一緒にビルへ入った。
「あの…」
「大丈夫ですよ。何も怖がる事はありません。お話をするだけです。その上で決めるのはあなたなのですから」
男はそう言って健一をエレベーターに誘い入れた。
健一はゆっくりとエレベーターに乗り込む。
男は行き先階のボタンを押してドアが閉まるのを待った。
エレベーターは小さな機械音を立てて動き出す。
行き先の表示はどんどん上層階へ移り、健一はただその表示をじっと見つめている。
その表示は自分の寿命を表しているようだった。
どんどん最上階に近付いていく。
最上階へ着くと自分の寿命が終わる。
そんな気がしたのだ。
エレベーターは六階で止まり、ドアがゆっくりと開いた。
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