30人が本棚に入れています
本棚に追加
/368ページ
「さあ、どうぞ」
その声は健一を現実の世界へ引き戻した。
そしてそのフロアに下りた。
妙に静かなビルだった。
そのフロアには誰もいなかった。
健一は男の後について歩いた。
男の靴の音だけがやけに響く。
そして男は突き当たりの部屋のドアを開ける。
「どうぞ。こちらです」
健一はそのドアをゆっくりとくぐった。
その部屋はビルの形相とは違い、踝まで埋まってしまいそうなカーペットが敷きつめてあり、高級そうなインテリアが並んでいた。
「どうぞ。お座り下さい」
健一は勧められるがまま、ソファに座った。
男はゆっくりと向かいに座り、膝に肘をついて手を合わせた。
男はただ微笑んで健一を見ている。
健一はその男の顔を見上げる様に見て愛想笑いをした。
その顔は自分でも引き攣っているのがわかった。
ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
男がそう言うと、赤いスーツ姿の女性がお茶を持って入ってきて、無言のまま健一と男の前に湯飲みを置いた。
健一は軽く会釈して、また男を見た。
「どうぞ。中国のお茶です。身体には良いですよ…」
男は先にお茶を飲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!