第零章 プロローグ

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「さあ、どうぞ」 その声は健一を現実の世界へ引き戻した。 そしてそのフロアに下りた。 妙に静かなビルだった。 そのフロアには誰もいなかった。 健一は男の後について歩いた。 男の靴の音だけがやけに響く。 そして男は突き当たりの部屋のドアを開ける。 「どうぞ。こちらです」 健一はそのドアをゆっくりとくぐった。 その部屋はビルの形相とは違い、踝まで埋まってしまいそうなカーペットが敷きつめてあり、高級そうなインテリアが並んでいた。 「どうぞ。お座り下さい」 健一は勧められるがまま、ソファに座った。 男はゆっくりと向かいに座り、膝に肘をついて手を合わせた。 男はただ微笑んで健一を見ている。 健一はその男の顔を見上げる様に見て愛想笑いをした。 その顔は自分でも引き攣っているのがわかった。 ドアをノックする音が聞こえた。 「どうぞ」 男がそう言うと、赤いスーツ姿の女性がお茶を持って入ってきて、無言のまま健一と男の前に湯飲みを置いた。 健一は軽く会釈して、また男を見た。 「どうぞ。中国のお茶です。身体には良いですよ…」 男は先にお茶を飲んだ。
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