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良い香りのするお茶だった。
健一も緊張からか喉がカラカラでお茶を口にした。
しかし今更、健一には身体に良いお茶は関係ない。
健一はそう思ったが口には出さなかった。
「あの」
健一は湯飲みをテーブルに置いた。
「はい。美味しいでしょ」
「ええ、とっても」
「そうでしょう。自慢のお茶なのですよ」
男は健一に微笑み、自分も湯飲みをテーブルに置いた。
「いえ、そうでは無くて」
「はい。わかっていますよ。ここに連れてこられた理由ですよね」
「…ええ」
健一は男を見て小さな声で答えた。
男は立ち上がり、部屋の隅にあったクローゼットから古い木箱を出した。そしてその箱をテーブルの上に置いた。
「私があなたをここに連れてきた理由はこれです」
男は手を広げた。
「これは何ですか」
当然の疑問だった。
余命宣告された直後に見知らぬ男に連れられて、知らない場所にやって来た。
そしてその理由が古い木箱だと男は言う。
「悪い冗談ならやめて下さい」
健一は声を荒げて立ち上がった。
「まあまあ、落ち着いて下さい。私は冗談が上手くないので」
男は慌てる様子もなく冷静に座ったままだった。
「とりあえず座って下さい」
健一は取り乱した事が恥ずかしくなった。
そしてそのまま落ちるように座った。
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