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本番前。
誰もが緊張した面持ちで、開演を待つ。
そんな強張った顔で大丈夫なのかと思ったが、斯く言う自分も強張っているのだろうと思うが。
ふと。
先程、瑠金に言われた言葉を思い出した。
『てっきり巫女衣装かと思ったけどな』
その言葉が、少しだけ面白かった。
何故なら、自分も”巫女服かもしれない”と言う不安があったからだ。
冗談で言ったのだろうが、自分と同じ事を思っていたのだと思うと、少しだけ面白かった。
『私は、男ですので』
それでも、その冗談はブラックだと思い少しだけ威圧的になってしまったのは、だめだったなぁと反省している。
【男には優しく、女には甘く、自分には素直に】
そんなポリシーを掲げていたのに、冗談で威圧的になってしまうのはまだまだ自分の精神力が足りないからだろう。
(でも、やはり緊張はよくないですよね)
ここまで積み上げてきた物を扇明は知っている。
誰も馬鹿に出来ないような、苦労も知っている。
それなのに、緊張と言う名の重りのせいで全てが台無しになるのは、嫌だと素直に思った。
「銀瑤さん、握手しませんか?」
唐突に問いかけた。
銀瑤は、不思議そうに目を細める。
「呪いのようなものです。これまで共に分かち合ってきた相手の体温を感じると、何故か安心できるんです」
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