呪(マジナ)いのようなものです

3/3
前へ
/25ページ
次へ
ダメでしょうか? 首を少し傾げて、自然と上目遣いになってしまう体勢で、紅と金の瞳を見つめる事、数秒。 「……わかりました」 銀瑤が折れる形で、龍笛を持っていない方の手を、差し出してくれた。 「不安な顔だなんて、貴方らしくもない。いつもの、凛々しい顔立ちでいて下さい。でないと、調子が狂ってしまいます」 演奏が終わったら、尻尾のブラッシング下さい。 サラッと柔らかな尻尾を触る約束を取り付けて、握手をした。 大きな手。 タコがあるせいで、少し固い。 でも、それが安心する。 手を離し、ふふっと笑いかけると、銀瑤も少しだけ笑ってくれて嬉しかった。 不安でも、励ましてくれる仲間がいる。 それがどれだけ大きい事か。 こんな日が来なければいい。 そう思っていたあの頃の自分に、一言だけ言ってやりたい。 『来なければいい日なんて、あるはずない』 と。 開演のブザーが鳴る。 (帰ったら、水風呂入りたいなぁ) 呑気にそんな事を思いつつ。 幕が上がるのを、見つめていた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加