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ダメでしょうか?
首を少し傾げて、自然と上目遣いになってしまう体勢で、紅と金の瞳を見つめる事、数秒。
「……わかりました」
銀瑤が折れる形で、龍笛を持っていない方の手を、差し出してくれた。
「不安な顔だなんて、貴方らしくもない。いつもの、凛々しい顔立ちでいて下さい。でないと、調子が狂ってしまいます」
演奏が終わったら、尻尾のブラッシング下さい。
サラッと柔らかな尻尾を触る約束を取り付けて、握手をした。
大きな手。
タコがあるせいで、少し固い。
でも、それが安心する。
手を離し、ふふっと笑いかけると、銀瑤も少しだけ笑ってくれて嬉しかった。
不安でも、励ましてくれる仲間がいる。
それがどれだけ大きい事か。
こんな日が来なければいい。
そう思っていたあの頃の自分に、一言だけ言ってやりたい。
『来なければいい日なんて、あるはずない』
と。
開演のブザーが鳴る。
(帰ったら、水風呂入りたいなぁ)
呑気にそんな事を思いつつ。
幕が上がるのを、見つめていた。
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