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(何を書くか、悩みますねぇ…)
蓋がしまった状態のペンで自分の頬を突きながら、夜空を見上げながら考える扇明。
藍色の生地の上に、白色の桔梗の花が描かれている浴衣。下に迷彩柄のシャツを着用している。履き物は、鼻緒が赤い下駄。
糖分が足りていないから、願い事も出てこないのだと近くにあった残り少ないお月見団子を一つ、手に取り口の中へと放り込む。少し甘いなと眉を潜めつつも、もきゅもきゅと噛み続ける。
(不純な願い事を書くと、バチが当たりそうだし)
【女の子ともっと関わり合いが持てますように】と書こうとしたのだが、関わり合いを持ちたいのなら自分が頑張ればいい話であって、願う程の事でもないかと書くのをやめたのが数十分前の話である。
もにっもにっと一定のリズムで、ペンで頬をつく。
ごきゅっと、お月見団子を飲み込んで、はぁと息をついた。
他の人はどんな願い事を書くのか気になって、周りに目を配らせていると気になる人がいた。否、気になっていたと言う方が正しいのか。
白の浴衣にピンク色の肉球が描かれている浴衣を着用し、淡い印象をもたせるが、黒色のブーツと赤の花が咲く黒の帽子を被っている。
ホワイトライオンの獣相。顔には、横切る程の傷痕があり、毛並みは、真っ白と言うよりかは、銀色に見える。水色の瞳が、水を連想させる。ピンク色の肉球がちらりと見え、柔らかそうだと言う印象を持たせた。
ペンを浴衣の裾で拭いてから、不快感を与えないよう、気をつけて話しかけた。
「失礼。インクがないのであればお貸ししましょうか?」
先程まで、自分の頬を突っついていたペンを差し出すと、驚いたように目を丸くしていた。
大方、何故インク切れをしているのが分かったのだろうと思っているのだろうが、あんなにもガリガリとペンで何度も書いていたのを見れば、なんとなく予想はつく。
「……だが、」
ちらりと扇明が持っている短冊に視線が向けられ、気を付かせてしまうとはまだ自分も未熟だなと苦笑をもらし、痛感した。
「まだ願い事が決まっていないので、使わないのです。……それとも、私が持っていたものでは嫌でしょうか?」
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