5人が本棚に入れています
本棚に追加
眉を下げ、目を伏せ、悲しそうなオーラを出す。
「断じてそのような事は!ぜひ、使わせて頂こう!」
やはりこの顔は使えるなと、心の中で呟きながら、無礼だと重々承知で覗き込む。
(……器用なものですね)
ペンなどの細い物は書きにくいのではないかと思っていたのだが、そのような事はないようだ。
書き終えたようで、ペンを返して貰った。
(……そうだ)
ぱっとひらめいたものを、忘れないうちにと短冊に書き、笹に吊るす。
ペンの蓋を閉じ、くるりと身体の向きを変え、お誘いをした。
「私、一人で寂しかったんです。シルヴィアさんさえよければ、一緒にご馳走食べませんか?」
半分嘘で、半分思いつき。
前半部分は、嘘である。周りは仲良く話しているなと思っていたが、特に寂しいと感じているわけではなかった。
後半部分は、同じ舞台に上がってはいたが、あまり話した事がなかった為、お近づきになりたいと思い、思い付きで誘った。
「ふむ、私で良ければ」
承諾の返事を貰い、嬉しく思いながらご馳走がある所へ、歩いていく。
「ちなみに、どんな願い事をしたのだ?」
シルヴィアから聞かれ、ふふと笑って。
「私は、シルヴィアさんの願い事の方が気になります。あ、お肉もう残り少ないですね」
「……確保するぞ」
優しい双眸から、狩人のような鋭い双眸に変わり、肉が好きなんだなと思いつつ「はい」と返事をした。
(本人の前で、言えるわけないですよね)
苦笑をもらすと、肌を撫でるような優しい微風が吹いた。
扇明の願い事【肉球を触れますように】が書かれた短冊を揺らし、微風は通り過ぎた。
最初のコメントを投稿しよう!