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部屋に戻る頃には、夕方になっていた。
干したままの布団やシーツを取り入れた。
ベッドメイキングをすると、ホカホカの布団をそっと撫でる。
…ここで眠っていた篤さん…
その姿を思い出しでしまう。
…ダメダメまた一からやり直すんだから。
改めて短くした髪に触れる。
…こんなに短くしたのはどれくらい振りだろう…
ベッドに横になり、目を閉じると自然と昔の事を思い出していた。
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「お母さん、今日は何時に帰るの?早く帰って来てね。」
まだ小さかった私は、毎日聞かされる夫婦喧嘩に怯えていた。
父と母の言い争う…お互いを罵倒する酷い言葉…ものが割れる音…母の泣き声…
布団の中でどれだけ怯え、どれだけ縮こまっても、どれだけ耳を塞いでも、私には逃げ場がなかった。
ある日、母が頬を腫らして、床にうずくまり泣いていた。
「お母さん…。」
そっと肩に手を添えると、
「瑞穂…お父さんはもうお母さんの事が嫌いになったんだって…これからは2人で生きていくの。男なんて信じちゃダメ。そして、世の中の男達を見返すの。女がどれだけ強くて美しいかを。」
そう言う母の瞳は、憎しみと悲しみが入り混じっていた。
肩に添えた手を握られ、強い口調で言い放つ母を抱きしめる事ができなかった…。
私はあまりに無力で、あまりに子どもだから…ただ助けて欲しかった。
お母さんもお父さんも大好きだった。
大切な人は、私の気持ちを無視して…私の存在すら無かったように去っていく。
子どもながらに絶望を感じていた。
一生消えない傷…。消せない傷…埋まらない心の穴…
母と2人で暮らすのは決して楽ではなかった。
幼いながらも、自分の事は自分で決め、身の回りの事だって何でもした。
貧しくて、ご飯が食べれない時もあった…。
でも、寂しいとも、悲しいとも…お腹が空いたとも、抱きしめて欲しいとも言えなかった。
閉じ込めた心は、大人になっても同じ。
好きな物を好きと言えず、欲しい物を欲しいと言えない。
これで言いわけないのは分かってる。
でも…殻を破れないでいる。
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