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side 要
…浅川 瑞穂。
初めて見た彼女は、どう見ても暗くて友達も寄り付かない程そっけなくて、髪もボサボサ。
どうやったら、そんな寝癖が付くんだよ…って興味本位に観察していた。
元々、親は美容師で何件か店を経営していた。
だから親は、なんの迷いもなく将来は美容師になるんだと思っていた。
そんな俺の前に現れた異質の人間。
彼女を見れば、決して裕福でない事は、子どもながらに感じていた。
だからと言って、手を貸したり無理やり友達になるってのもおかしいと思っていた。
…ほんの興味本位だけだった。
ある日の休み時間、教室の窓から外を見ると、自転車置き場に瑞穂がいた。
どうやら自転車がパンクしているらしい。
タイヤを触ったり回したり、そんな事してもどうにもならないのに…その姿が可笑しくて1人笑いを堪えていた。
そして隣の自転車にぶつかり、将棋倒しの如く、自転車が倒れていく。
何やってんだか…。
そして、彼女は慌てて自転車を一つ一つ起こしていた。
暑い夏の日差しの中、たった1人で。
彼女は、ボサボサの髪を一つにまとめて、腕まくりをしていた。
その行為に俺は釘付けになった。
彼女の白くて細い首には、一つにまとめても、おくれ毛がひっついていて…彼女のひ弱な細い腕は、必死に自転車を起こし、通り過ぎる学生はみて見ぬ振りをして通り過ぎていく。
俺もその1人なんだと思うと、自分が情けなくなった。
気がつけば、彼女の元に走りより無言で自転車を起こしていた。
彼女は一瞬俺を見て驚いていた。
俺も彼女を見つめると、その大きな瞳に釘付けになった。
この時に、俺は彼女に惹かれたんだ…彼女の瞳に吸い込まれたんだ。
ポツリと小さな声で
「ありがとう。」
そう言って、彼女は去っていった。
教室に戻ると、一つにまとめた髪はほどかれて、やっぱりボサボサで、顔もよく見えない。
俺だけが知る彼女の瞳を思い起こすと、とても特別に感じて胸が弾んだ。
俺だけが知る彼女…嬉しくてたまらなかった。
そして、俺は彼女と接触したくてあんな酷い事を言ってしまったんだ。
好きだから…不器用になる…あまりにも子どもだった。
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