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ヤメロ!!サワルナ!!
地の底から響くような低いおぞましい声と、得たいの知れない何か気持ちの悪いものが、体を突き抜ける。
「!?」
なんだ、これ……
まるで生ぬるい泥のなかに足を入れたような、不快感。背筋がざわりとして寒さとは別の感覚に襲われて、肌が粟立った。
嫌だ!
本能が嫌だと叫ぶ。刹那は、反射的にぎゅっと眼を瞑り、得たいの知れない何かから逃れようとした。
この人の側は嫌だっ!
刹那は、彼から早く離れたい衝動に駆られ、後退った。
だが、彼は苦しそうにしている。しかもそれは自分のせいかも知れなくて。
刹那は自身の手をぎゅっと握りしめて、逃げ出してしまいたい衝動に耐えた。
「あ、あの、大丈夫か……?」
手を触れることは躊躇われたので、顔を覗き込むようにして、答えない彼に再び声をかける。
彼が、刹那の呼び掛けに顔をあげる。
苦痛に歪んではいたが、彼は整った顔立ちをしていた。黒い長めの髪に、色素の薄い灰に近い色の瞳が印象的だった。
ひどく顔色が悪い。
「あ、の、…」
ひどい嫌悪感に苛まれているせいか、声が途切れ途切れになってしまう。
不快な感じも未だ続いているのに、何故か。
目を逸らすことが出来ない。
相反する感情に頭は混乱するばかりだった。
「あっちへ……い、け」
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