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掠れた低い囁くような声。さっきの地を這うような不快な声とは別のものだ。
じゃあさっきの声は一体なんだ。
「え…」
自分の感情にも聴覚が得た情報にも、分からないことばかりで混乱した頭のまま、刹那は彼の言葉を聞き返した。
「あっち、行けよ」
「…………はぁ?」
人が心配して、関わりたくない気持ちを必死で押さえて声かけたのに?
言った言葉が、あっちいけだぁ?
なんだか腹がたってきて抗議しようと彼の肩に手を伸ばす。
「あのさ……な」
「さわるな」
彼が手を払おうとして、指先が刹那の手を掠めた。
ヤメロ!
触レルナ!
光ガ……苦シイ…………!
指先が触れあった瞬間、低いノイズのような声が一斉に刹那の脳裏に響いた。
最初の声だ。
「!!」
ひどい、悪寒が背筋を走る。
早く、離れなくては…。
これ以上、この男の側には居られない。
いては、いけない。
五感の全てが彼を拒絶して気づいたときには、刹那は走り出していた。
視界の端に彼が咳き込んで倒れ込む姿をとらえたにも関わらず。
止まることが出来なかった。
…逃げるようにして、彼から離れることしか。
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