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あの時は…。
もう一ヶ月近くたつのに、あの日のことは鮮明に脳裏によみがえる。
葵が言うように刹那は彼女だった菜穂に振られた。
思わず泣いてしまったほど、ショックだったのに。
そのあとの出来事のインパクトが強すぎて、案外振られたことは平気だったりする。
刹那の様子がおかしいのは、別れたせいだと誰もが思っているけれど。
……あの声はなんだったんだろう。
思い出すだけで肌がざわついて、気分が悪くなりそうだ。
倒れた彼を放置して逃げてしまった罪悪感も半端ない。
「はぁぁ~……」
さっきとは別の意味で、デカイため息を漏らすと葵に頭を撫でられた。
「ごめんごめん。そんなに気にすんなよ~♪」
…謝られているように聞こえないのは、気のせいだろうか。
「そんなことより今日は何時なんだよ」
刹那は強引に話を戻す。これ以上葵に弄られたくない。
「一緒に帰ればいいじゃん。杉山さんとこもついてくしさ」
確かに家は近い。小学校から同じだし。
「来なくていいから!」
「とりあえず次の放課でノート持ってくるから」
葵は噛み合わない会話のまま、チャイムに促されて足早に自分のクラスに戻っていった。
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