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夜の闇を、紫央の掌から生まれた青白い球体がほのかに照らす。
女は、微かな光に照らされた紫央の氷のように冷たい眼差しに更に顔を歪めた。
「や、やめて…」
「……」
紫央の掌のひかりは、やがて矢のような形へと代わる。
紫央はそれを慣れた手つきで掴んだ。
「……癒着が浅いといいな」
女に聞こえているとは思えなかったが、紫央は小さく呟くとためらいもせずに手にした矢を、女の額めがけて投げつけた。
光の矢が、見開かれた両の目の間に突き刺さる!
と、同時に
ギャアアアアァァ!
女の声とは別の低い低い断末魔が闇夜に響く。
矢は額に吸い込まれるように消え、女はどさりとその場に倒れた。
辺りには暗闇と静寂が戻り、一瞬濃い霧のようなどす黒い情念にまみれた気配が漂った。
紫央は苦しそうに眉をよせ、先ほど光を生み出した左の掌を霧に差し出す。
すうぅ……。
嫌な気配は紫央の掌に吸い込まれ、やがて消えた。
かわりに紫央は胸を押さえて、顔を歪める。
「っぐ……っ!」
毎度のことだが、きつい。
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