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「……心配かい?」 秋吉が去ったあと、障子の向こう側に別の人間の気配に気付き、千代は言葉を紡いだ。 秋吉に向けたものとは違い、優しさのこもった声音。 「気づいていらしたんですか」 細い女の声が少し驚いたように返事をした。 「百合子さん…今さらだろう」 千代はふっと笑い、立ち上がると障子を開けた。 か細い声のそのままに、華奢な体の黒髪の女性が心配そうな表情を浮かべて千代を見た。 「ヒカリは……紫央くんに何も伝えていないのです」 百合子は悲しそうに目を伏せると人の名を唇に乗せる。 「そうだろうね。……桐島の考えることはわからんよ」 今にも泣き出してしまいそうな百合子を慰めるように、千代は彼女の肩に触れた。 「私たちも…話さなくては」 百合子は不安げに瞳を揺らす。 「まだ…その時じゃあないよ」 千代は肩に置いた手のひらにぐっと力を込めた。 「私もお前も……あの子を守らなくては。……そうだろう?」 「分かっています」 「あの子に力を使わせてはならない。……けれど……」 千代は辛そうに眉ねを寄せて、小さく息を吐くと、目を伏せた。 「いずれ、会うのだろうね」 「……ええ」
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