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匂いと記憶の関係は深い。
特定の匂いが記憶を誘発する現象を『プルースト効果』という。
嗅覚は五感の中でも特に原始的で、五感の中でも唯一『大脳新皮質』を経由しないことでも知られている。
つまり匂いは、記憶や感情に直接作用する特殊なメカニズムを有するのだ。
その匂いが記憶だけでなく、幻覚や妄想まで作用するとしたらどうだろうか。
その幻覚や妄想が、人の人生に多大な影響を与えているとしたら。
僕の名は八分儀 香流(はちぶんぎ かおる)。
裏の世界では幻香師(げんこうし)、または妄想遣いと呼ばれている。
いつも通り、僕は横浜線で依頼主のオフィスに向かう。
車なら快適なドライブになるのだろうが、生憎僕は車が苦手だ。
運転している最中に気が緩むと、視たくないモノが”視えて”しまうからだ。
だから僕は、もっぱら普段の足に電車を利用している。
電車も何かと”視える”場所が多いが、車内では眼を閉じているから平気だ。
もしくは中吊り広告を見ていれば何も視界に入らない。
中吊り広告では、ネオセレブ族の浅野 拓海社長が心筋梗塞で亡くなったことを報じていた。
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