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札束を積み上げた写真で有名になり、一時は国会議員に出馬するとの噂もあった人物だ。
貧乏な僕とは大違いだ。
亡くなってみれば、会社は多額の負債で倒産寸前だったらしい。
盛者必衰の理だが、広告ではスキャンダラスな記事で煽り立てていた。
こんな下世話な世の中だから、僕のような仕事が無くならない訳である。
新横浜で電車を降り、コートを白衣のようにたなびかせて歩く。
しばらく歩くと、家もまばらな住宅街に入る。
僕は街の喧騒を離れた、この住宅街のたおやかな静謐が気に入っていた。
僕の依頼主、御門 那月(みかど なづき)のオフィスは、地中海の遺跡を想わせる月白色の豪邸だ。
ぱっと見は高級邸宅だが、中身はオフィスと北欧アンティークしかない。
もっぱら御門が暮らしているのは、都内の高級マンションである。
「八分儀です」
カメラ付きインターホンに名乗る。
「上がって」
フェロモンが分泌されているような、凄艶で艶やかな声が聞こえた。
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