第1章

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・常に作家であれ とあるネット小説家が呟いた。このセリフ、どういう意味なのか。 「意味は?なんて野暮なこと聞くなよ」 …ハードボイルドな答えだ。 もちろん答えだけではない。 彼はそう返して葉巻の先を奥歯で噛み締め、ジッポーの火花を咲かせ、蛇のような煙を立ちあげる そこから連動するような動きで飲みかけのウイスキー瓶に手をかけて、 「常に作家であれ、要するに常に作家でいろ、という意味よ」 その言葉と共に胃袋へ流し込んだ …意味教えてくれたね。 …しかも言葉のまんま。 「小説ってのは心意気、山の手のハイソなお嬢さんみたいに上品じゃ行けねえ、」 「テメェの書きてえもんをな、腕力のおもむくまま、何者にもとらわれずただひたすら…」 またウイスキーを挟み、 「書けばいいのよ。」 絵に描いたようなハードボイルド。彼は手入れの届いた自慢であろう口ひげを指で流し、テンガロンハットをその指で弾く。 もちろん彼の靴のかかとにはよくわからないギザギザの車輪的な車輪も付いている。 「俺は今でも周りからうるさく言われることもある。Twitterで俺の名前なんか検索するんじゃねーぜ?お前さんまで巻き込むことになる。」 このオッサン、Twitterって言った… 自分の名前、検索したんだ… 「言いたいやつには言わせればいいんだ。良いか?良いこと教えてやるよ。」 僕は唾を飲み、彼のハードボイルドなセリフを心待ちにする。 ズボンの太ももの部分を握り、手のひらに汗をかきながら。 そしてついに彼の分厚い唇が開き、その口ひげが揺れた、 「…アンチがいるってことは、その倍ファンがいるってことよ。」 …あれ、 …なんか、ハードボイルドではないセリフ。 ま、まあいいや、良い言葉っぽいし。 彼はそれから他愛のない話をしばらく続けた後、 「最後に一つ、言わせてくれ。」 バーで女を口説くビリヤードスタイル話からの、何やら神妙な面持ち。 「…チキンレースが、あった。当時もめていたギャングの連中と、俺たちで。」 おっ、なんか急にハードボイルド!聞きたい! 「…いや、まあその話はやめておこう。」 …え!なんでだよ! 「今月末締め切りのエブリスタ大賞ノミネート作品、マンダム吉井こと俺様の 恋した空は桃色畑 をよろしく。」 …映像化狙いだそうです。
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