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たかが髪を切っただけなのに、頭の中にある鉛のようなものが少しだけ軽くなった気がした。
髪を切り終わり、ブローを終えた所でまた声がかかる。
『終わりましたよ。気に入ってもらえると嬉しいのですが……
あ、目……見れませんね。後からでも触ってみてください。似合いますよ』
『・・・・・』
返事すらしない僕に『クスクス』と小さく笑う声が聞こえた。
『次に髭剃りをさせてもらいますね。少し上を向いてもらえますか?』
急に顎に手を掛けられ、クイッと持ち上げられた途端、真さんとのキスシーンがフラッシュバックした。
未だ終わらぬ過去の映像。
僕は思わず目を見開き、その手を振り払った。
睨みつけた鏡の奥に、1人の男性が立っていた。
光に慣れてきた目に映るその男性は、落ち着いたブラウンに染められた短髪をワックスで立ち上げ、左耳には数個のピアスが光っていた。
目を見れば、髪と同じ色のカラコンが入っているようで、とても柔らかな優しい印象を受けた。
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