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そこまでなんとなくでも考えてから口を開く。
「あんた名前は? 性別は?」
「あると思うのかい? ボクをなんだと思っているんだい君は。逆にボクは君をどう思うべきかな、漆黒の堕天使はどうだろうね。中々に、畏怖されるのではないかな?」
てこてこ歩き、足元で顔を上げて手を動かす縫いぐるみ。
「あんたはなにか勘違いしている。高校生だ。二年生になる。思春期は二十歳まで続くらしいが、少なくともそんな侮蔑で成形された名前は受け取れない程には熟してるよ」
膝を折り、目線を少しでも合わせようとした、身長差から目線を下に向けなければならず目を伏せた。次になにを言おうか迷い、考えようとした。見計らった訳ではないんだろう、ただ丁度、自分からすれば都合良く電車が通過する。轟音と風切り。幾つも窓が並んだ長方形の箱、これまた多数伸びた光の柱が身体を切断するように走り、過ぎ去る。
闇深い所から躍り出た電車は、息を吐いた折りには暗黒に透けて行く。
黄色の柱を伸ばす幾多の窓には、交差した寸隙に人影らしき黒いもやが見えた。電車の中には人は少なく、電車の高さからも自分は乗客からは見えなかったに違いない。闇に消え去る背後を暫し目で追い、熊の縫いぐるみに戻す。腰、だろう場所に左手を添えて右手を前に突き出した熊の縫いぐるみ。
「そもそも、ボクの知る限りに於いて熊の縫いぐるみが動くのは可笑しいだろう。常識、と言うね、これを君達は。じゃあ、ボクのように常識を破っているのを知り、看過している所か話し掛けるとはまた一体どんなプロセスを踏んだロジックなのか不思議だよ」
肩を竦めたのか、変な動きで手が動いた。
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