彼は上下左右である

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「百歩譲って君がボクをブラックボックス、要するに科学的な、内部でなんらかの現象が起こり、結果表面ではこう動いていると解釈したとしよう。それは常識から超過なんてしていないからね、驚きもないと思うよ。いやいや、それでも多少、そう説明されたとしても足りない慣れなさがある筈だろう? うん? そこの所分からないのだけどね」 「……長いな」 手を前で組み、指を組み換え弄びつつ熊の縫いぐるみの台詞を頭に擦り付けた。声はなんだか子供のようで、凛としながら細くも悪意のある声だった。意識はしていなかったが、姉ちゃんとは正反対な印象だ。悪意はどちらもどちらと自分は首肯する。 「あのねえ、君ボクの事をそんな風に理解しているなら残念ながら的外れも良い所だよ。ふざけないでくれたまえよ。なんでボクがこんな姿をしていると思う? なにもないと思ったからだよ。それを、なにもなく黙っていられると思ったのになんで君はボクをそう扱うかね。君の姉君には要らないと足蹴にされるし、挙げ句君までもだ。縫いぐるみの自由意思を無視しているよ」 「人権……、縫い権?」 「呼び方は些事だよ。そんなものは良い。ボクとしても非はあったけどね。ボクも焼却炉で燃やされても喋らず動かずいるのも覚悟出来るし、なんならそれでも良い。なんなげひ」 右手で頭を握り、路面に押し付けた。簡単に潰れた。熊の縫いぐるみが暴れるので離す。 「君ねえ。人の話は最後まで聞けと教わっただろう。いやいや、焼却炉で燃やされる覚悟位はするけどね、意味もなく必要もないなら話は別だ。ボクはぁあん!」 右手を左に振った。胴体を掌が押し飛ばされた熊の縫いぐるみは金網に激突した、数刻の間を置いて路面に伏す。
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