彼は上下左右である

13/49
前へ
/235ページ
次へ
鈍重な動作で起き上がるや否や、熊の縫いぐるみは憤慨した。 「君、ボクと徹底抗戦する気かい。そうかい。そうするかい。ほっほー、このボクに君のような人間が宣戦布告か。どうもボクを憂さ晴らしの道具かなにかと勘違いしていないかい。ボクは決して好き好み熊の縫いぐるみではないのだがね、若者受けが良いらしいから、若い層から観察でもしてやろうとばかりしていたが、君はそんなボクを逆手に刃を向けると言うのだね?」 「話が長いんだよ。それに元からそんなつもりでしかない。回収したら適当に遊んで、リサイクルショップに売り飛ばす算段しかない」 「君、ボクがなにか知らないようだが、仮にもボクを買ったんだ」 「ああ、三千二百円で」 「うん、そうだね。ボクは値段に不満がない訳じゃないのだが、君はボクを所有する気がなくとも買った訳だ」 「それも自腹だ。月に三千円の小遣いだから赤字も赤字、大赤字だ畜生。親に不満がある訳じゃない。小遣いがあるだけで良いと思うし、強欲にもっと欲しいともそれなりに思うが、感謝はしているんだ。元々使い道がなくて財布に大抵常時二万円前後はあるとしても、だ」 人差し指で鼻先を小突く。鬱憤を綿に吸い込ませて拡散させる。熊の縫いぐるみは何度か頷いた。
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加