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「良い事とは言えないがね、君には教えよう。今日は静かだ。どうやら、いるね。ほら、踏切を見たまえよ。終電が消えた後の踏切とはまた洒落ているが、あれは君に用があるらしいね」
「踏切……ああ」
見れば、踏切の、線路の真ん中に立って唸るなにかがいた。膝を引っ込め直立した。どうにも疲れている。要因はあれだ。踏切の場所にいるあれだ、なんだか分からないし知りたくもないが、此処最近会うのだ。寝付けない理由でもあるが、幽霊を信じない自分はプラズマかなにか、物理現象だろうと確信している。そう思い見るから幽霊だとか戯言をほざけるんだ。現象になにも思い馳せる人間でもないとまでは述べないが、生憎子供騙しの恐怖に付き合う気はない。
肝試しなんぞする人間は、転げれば良い。お化け屋敷なんざ行く人間は壁に当たれば良い。全く。的外れも甚だしい事柄で怯えていた自分を思い出してネガティブにならない勇気が欲しいとも。それにしても今日のは一段と色が深い。
「犬か」
犬。そう見える造形である。黒くて良く分からない。隣接された照明により踏切中央は明るいだろうに、何故だかちっとも鮮明ではない。まるでまるで、浮かばなかった。なにかで表現出来そうだったが、どれも違うなんて感じるものだから諦める。
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