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空を見上げているのに真っ暗なのも、なにかが上に被さっているんだ。だとしたら、なにが被さり、なにが両肩を押さえているんだ。鈍痛や重圧に身を捩るが動かなかった。漬物石を乗せられているよりも酷い。
「なん、だよ」
意味や訳も分からず、出すにはこれしかなくて出した言葉に反応はない。強いて言うなら唸りと、本能が泣き叫ぶ程度だ。
殺されるなんぞ確信した。殺されるんだ、自分は。なにかに殺されて生との解離が済む、これは抵抗が通じない種類のものだ。肘から先は動くし、手も動く、どうすれば良いのか分からなかった。考えるよりも足を動かし被さるなにかに突き上げればなにかを靴底が蹴った。形容するには困る、柔らかいのかあやふやなのか、軽いと表現するには心もとない感触だった。
被さったなにかを押し飛ばせて這うように立ち上がり、混乱したまま道路を無様に転がる。手前には熊の縫いぐるみがいたが視野から除外して今まで押し倒していたなにかを見据えた。視線の先では夜道に染まる黒い犬がいた。筋肉質で、なにより巨大で、大型犬を合わせたか様の巨漢を動かしていた。隅々まであやふやで黒い。口や目や耳があるし、四肢も分かりはしたが、見ていて気持ちが悪い。愉快にはなれそうにないなにかだ。出会った事はないが、ライオンと対峙したらこれに近いんだろうか。
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