彼は上下左右である

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卵は容易く割れるなんぞ言うが、それは中からじゃないからだ。雛は必死に嘴で殻を突いて割ろうとするが、どうにも力尽きて、死ぬ場合もある。それでもその雛は優遇されていると思う。考え方の問題なのか、或いは考え方以前に論点が違うだけなのか。例えば産まれる事は幸福だろうか、生命の誕生とは良いものであるなんぞ大抵は言うが、自分は怖くて仕方がない。 産まれるのは運が悪かった、産まれたのは最悪だった、だからこそ、産まれてからの第一声は泣き声なんだ。そうだろう、産まれ落ちては殺されるまで生きるしかないし、なによりも生との決別こそが終わりなのだ。むしろ死んで終わる方が喜ばしく、また、幸福だ。次はなくて良い、天国も地獄もふざけているだろう。 生との解離を成功する為に自分達は産まれ、どうにか絶望から逃れようと足掻いて気を紛れさせようと躍起になり、盲目になりたがる。直視すれば嫌になって、残念がるしがっかりして、気持ちが蟠る。ひたすらに、直向きに嫌になるしかないんだ。絶望から少しでも逃れる為に、自ずから曖昧になるのだ。
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