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「あんたどうすんのよ。彼女へのプレゼントが熊の縫いぐるみとか、有り得ない有り得ない」
「……彼女いないし」
「なにか言った?」
「いえ、なにも」
「将来が心配……、うん」
言葉を区切り、姉ちゃんは黙った。伺えば外に顔を向けていた。目線を辿るが、窓の外には夜しかない。月明かりは薄いし、暗いだけだ。なにか気になるのか、それとも近頃外に出ていないのか。お母さんが最近見舞に来ているのかも気になる。散歩はお母さんが連れて行くからだ。
「左右、最近どう? 学校とか、楽しい?」
「……、それなりに。課題もあるし、部活もあるし、嫌なクラスメイト、馬鹿なクラスメイト、うざいクラスメイト、嫌いな教師、分かり難い授業がなければ楽しいぜ」
軽く言えば姉ちゃんは鼻を鳴らす。
「あんた、それじゃあ学校なくなるじゃん」
「そうだな」
自分は小さく笑う。姉ちゃんも笑う。二人で笑い、切り上げる。
「じゃあ、そろそろ帰るよ。また今度に熊の縫いぐるみ以外を買ってくる」
「要らん。後来んな禿げ」
「禿げてない、ふっさふさだろ。ほら見ろ」
頭を指差して抗議するが、姉ちゃんは見識を改める気はないらしい。
「チャバネゴキブリを見下ろした感じに近いよね、あんたは」
「誰がゴキブリだ呆けが!」
「うっさい、出てけゴキ!」
「触角揺らしてやろうか」
「殺虫剤振り撒こうか? 早く、此処から、出て、行け」
区切り区切り、一つとして甘くなく鉛を乗せた言葉が頭に落ちて来た。反論すると林檎が飛んで来そうなので渋々、嫌々ながら引き下がるしかなかった。
「はいはい、分かった分かった。じゃあ、姉ちゃんお休み」
適当に答えて、置いていた軽量なリュックサックを背負って病室から退室した。姉ちゃんが舌を出しておちょくっていたが無視した。
廊下を歩いていて気付く。
「そうだ。リュックサックに熊の縫いぐるみを詰めれば良かったんだ」
我ながら勿体ない事をしたものだ。結構本気で投擲したし、帰宅する方向に図らずとも投げてもいたので、帰路に転がっている可能性もある。見付けて大丈夫そうならリュックサックに詰めよう。リサイクルショップで売れば百円にはなるだろう。僅かでも元が帰ってくるならば上々だ。
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