「新・記・録」

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「我々をつなぐのは信仰じゃなくて向上心、向上心だよ、分かる? ホラあそこに……」 苛立たしげに壁の一角を指さす。 「180とか190とかって数字が書いてあるの見える? みんなあの目盛りの一ミリでも上を目指して頑張って首を伸ばしてるんだよ」 次には身振りで信者たちを示す。 彼の言葉につられてよくよく目を凝らすと、信者たちが耳を振っているのは、少しでもその長さを伸ばそうと、首に力を込めていることの結果だった。 どの人も必死の形相で首に青筋が浮かんでいる。 「あんなことをして首が長くなるんですか?」 「向上心だよ、向上心。一番長く伸ばせたものが次の一年間教祖になるんだ」 「教祖が任期性なんですね」 「前の教祖は教祖の座から降りると同時に殺される。破壊と再生、豊穣の祈りだよ」 そんな教祖になんて一体誰がなりたがるんだろう。 でも現実にこの信者たちは首を伸ばそうと必死なのだから、教祖の座にはワタシなんかには分からない引力のようなものがあるのかも知れない。 「ところで、入信希望書にお名前は書いていただけたのかね?」 「違うんです。ワタシはそういうんじゃないんです。ここには、パン工場のライン作業員の募集があったから面接に来ただけなんです」 「みんな最初は尻込みしてそう言うんだよな。いいよ、印鑑はまた次の時で。今日はここにサインだけして」 「今のところ次の教祖はどの人に決まってるんですか?」 このままだと強引に入信させられてしまいそうなのでワタシは慌てて話を逸らせる。 迂闊に入信なんてしてしまって、万が一にもすぐ教祖になんてなってしまったらシャレにならない。 こう見えてもワタシの身長は185センチあるのだ。
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