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「そのう……ここは新興宗教のようなものなんですか」
堂内に響き渡るバサバサといった音が、まるでイナゴの大群の襲来のようにワタシを不吉な気持ちにさせる。
それは一斉に揺れる長い耳がぶつかり合ってたてている音だ。
「あなたね、今新興宗教なんて言わないの。新興なんて言葉、どこか見下してたり侮蔑的な響きがあるでしょ? 今は新宗教! 新宗教と呼ぶのが常識だよ。それぐらいのことは知っておきなさいよ」
ワタシは新興という響きは何だかスーパーのオープニングセールみたいだ、と感じていて、別に侮蔑的な意味があるなんて思えなかったが、とりあえず頷いておく。
「では、ここは新宗教の道場みたいなものなのでしょうか?」
新宗教を強調して質問をしなおしてみる。
こういった我慢強さはワタシの美点の一つだ。
「あなたね、ここが宗教に見える? お経唱えたり高い壺を買わせたりするように見える?」
そう見えるからこそそう訊いたのだけど、彼の剣幕には逆らわないほうが良さそうだ。
ワタシはワタシの美点を発揮して曖昧に首をふる。
広いお堂の中にはナイロンの畳が敷き詰められていて、一見すると柔道などで使われる武道場のようにも見えるが、ここに集まっている何とも奇妙な人たちの存在が、ここが絶対に武道場などではないことを教えてくれる。
というか完全に新興宗教の怪しい修行場にしか見えない。
みんながウサギの耳のような形状の長い付け耳を付けている。
まるで大昔の場末のキャバレーのバニーガールの恰好をした女の子が付けているようなヤツだ。
そして正面の壁には何やら昆虫らしきものが描かれた大きなタペストリーが一枚。
二つ体節のある胴から伸びる十本の肢。
或いは下に伸びる二本の線を足とすれば、二本足で立つその怪物の腕の数は八本。
上に長々と伸びる線の横には「新」の文字。
そして右横あたりに「記」、右下あたりには「録」の文字。
続けて読めば「新記録」とも読めるが、一体どんな意味があるのだろう?
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