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「あのイコンが気になる?」
ワタシの視線に気付いたのか彼も自分の背後を振り返ってタペストリーを確認する。
「イコン?」
「聖人を描いた聖画のことだよ」
「あれが聖人なのですか?」
「キリスト教でいうところの聖人とは少し違うけどね。あれは我らが偉大なる父、くもうみ様」
「くもうみさま」
「書いてある三つの字は我らが教義の三つの柱で、つまり、新しきこと、記すこと、録することを表しているんだよ」
「教義ってやっぱり宗教なんじゃないですか」
ワタシは堂内を見渡す。
相変わらずバサバサと耳を揺らせている人々。
みんな忘我の表情をしている。
ワタシはまるで宇宙の果てのとても辺鄙な惑星に降り立ってしまった宇宙飛行士のような気分になる。
そこは奇妙な生物が支配する星で、言葉も生体も違うその宇宙人たちとコンタクトをとる方法はない。
自動翻訳機は全く役には立たず、その他に宇宙飛行士の手にあるのは一丁のレーザー銃のみ。
だけど、むやみに撃ってその星の住民全てを敵に回すことは絶対に避けたい。
映画ならそこに助けになる仲間がやってきたり、宇宙人の中にも心通わせることのできる者がいて逃げ延びる助けになってくれたりするのだろうけど、この現実にはそんなものは望めない。
おまけにワタシはレーザー銃さえ持っていない。
「違うよ」
彼は気分を害したようすですっぱりと断言する。
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