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辰也は今この時を生きる人間である。 もともとが霊や魂の世界などに興味は無いし、囚われるつもりも無い。  自分は美加を愛している。 その気持ちに偽りも揺るぎも無かったが、同時に、クジナを愛する想いにも偽りは無かった。 辰也はロマンチストだが現実主義な男である。 素直に、あるがままに、二つの愛を受け入れて  『今』を生きていた。 したがって、クジナの事を思い出す事は滅多には無かった。 では何故、美加を口説かないのか? 率直に言えば自信が無かった。 美加を愛している。 その想いは子供の頃に美加と出逢い感じた 『好き』と言う気持ちが年月と共に成長し、熟成したモノである。 もはや揺るぐ事の無い気持ちであった。 だが、果して美加はどうなのか? 自分は美加を幸せに出来るのだろうか? 自分以上に美加の夫として相応しい男がいるのではないだろうか? そう考え出すと踏ん切りがつかなかった。
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