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美加も自分を好きでいてくれている事は、わかっていた。 つまり、自分が本気で美加を誘えば、美加は自分を受け入れてくれる筈である。 それがわかっていながら、愛の行方を運命に委ねると言う行為は苛酷であり、馬鹿馬鹿しくもあった。 誘惑に負けて、美加を口説いてしまうであろう事は予測出来たので、辰也は美加との間にリミッター的な保険を掛けた。 美加が辰也に誘いを掛けた際に、辰也がたまに美加を冷たくあしらうのは、リミッターを仕掛ける為の行為だった。 誘惑と言う物は人からの誘いよりも、自分から誘惑にかられた場合の方が抵抗出来ない。何故なら、自分が誘惑にかられた時点で既に誘惑に取り込まれているからだ。 つまり、辰也は美加の性格を考えた上で、自分が美加に誘いを掛けた時に、美加がそれを拒むように、敢えて美加を冷たくあしらっていたのである。 運命に愛の行方を委ねた以上、禁止項目だけでは無く、愛の成就の為の取り決めもあった。 それは、美加がリミッターを外してしまった場合である。 美加は気の強い女ではあるが、当然、弱い部分も持っている。 美加は子供の頃から辰也を好きだったのだが、その気持ちの表現に関しては、常に臆病で受け身だった。 その性格を考慮すると、美加が辰也に誘いを掛けて来た場合、辰也がその誘いを軽くスルーしてしまえば、それ以上の誘いを美加が掛けて来る事は考えられなかったし、冷たくあしらわれた美加が、自身のプライドを捨てて、辰也を受け入れる事も考えられなかった。 つまり辰也の仕掛けたリミッターは、美加が自分自身の性格が持つ壁を、打ち壊した時に解除されるモノであった。 実にまどろっこしく、受け身で、馬鹿馬鹿しい取り決めである。 辰也らしからぬ、この決まり事を、辰也が守り続けるのは、クジナに対する想いから来るモノであるのだが、辰也自身はその事に気が付いてはいない。  それ故に辰也の苦悩も深かった……
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