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「マスター、額に青筋出てるよ」
不意にマリが小声で辰也に告げた。
店に残った客は美加達だけであり、マリと桃華は再び店に出てくると、後片付けをしていた。
「マリ。看板消して来い」
(ここからは部外者厳禁だ)
辰也がマリに耳打ちする。
「あいあいさぁぁー」
小鼻をピクりと膨らませニヤリと笑う。
マリはいそいそと動き出した。
(気に入らないのは俺だけじゃ無いってか……)
マリの笑顔に冷静さを取り戻した辰也が、マリと桃華に目をやった。
桃華は凶暴そうな瞳で酒井を見つめ、マリは辰也が何か仕掛けるのを待ちわびている様子だった。
酒井に目をやる。酒井の左手はカウンターの上には無い。
つまり美加の隣側にある手はカウンターの下にあり、未だに美加の脚の上にあった。
しきりに美加に酒を勧める酒井の言動は、美加をお持ち帰りにしようと言う魂胆が見え見えだった。
先程、美加は桃華を、自分の娘だと酒井に紹介して、二人は挨拶をしていた筈である。
初対面の娘を前に、その母親である美加の脚の上に手を置く神経……
中学生の娘が我が家のように振る舞う店。
考えなくても、そこが美加のテリトリーの中心部である事は明白な事である。
にも関わらず、美加のお持ち帰りを狙う…
酒井は完全に辰也の逆鱗に触れていた。
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