5/11
前へ
/36ページ
次へ
「マスター、額に青筋出てるよ」 不意にマリが小声で辰也に告げた。 店に残った客は美加達だけであり、マリと桃華は再び店に出てくると、後片付けをしていた。 「マリ。看板消して来い」 (ここからは部外者厳禁だ) 辰也がマリに耳打ちする。 「あいあいさぁぁー」 小鼻をピクりと膨らませニヤリと笑う。 マリはいそいそと動き出した。 (気に入らないのは俺だけじゃ無いってか……) マリの笑顔に冷静さを取り戻した辰也が、マリと桃華に目をやった。 桃華は凶暴そうな瞳で酒井を見つめ、マリは辰也が何か仕掛けるのを待ちわびている様子だった。 酒井に目をやる。酒井の左手はカウンターの上には無い。 つまり美加の隣側にある手はカウンターの下にあり、未だに美加の脚の上にあった。 しきりに美加に酒を勧める酒井の言動は、美加をお持ち帰りにしようと言う魂胆が見え見えだった。 先程、美加は桃華を、自分の娘だと酒井に紹介して、二人は挨拶をしていた筈である。 初対面の娘を前に、その母親である美加の脚の上に手を置く神経…… 中学生の娘が我が家のように振る舞う店。 考えなくても、そこが美加のテリトリーの中心部である事は明白な事である。 にも関わらず、美加のお持ち帰りを狙う… 酒井は完全に辰也の逆鱗に触れていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加