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酒井がタバコをくわえた。 「ちょっと待った」 酒井の右手がダンヒルのライターに伸びたのを、辰也が低い声で止めると、厨房の戸棚の中から拳銃を取り出した。 銃身の長い、銀色の44マグナムだった。 勿論、本物では無い。 辰也の顔が能面のような表情に変わった。 冷たく目を細めて、銃口を酒井に向ける。 「ふ っへっっっ!?」 一瞬、凍り付き、驚愕の表情と共に、椅子からズリ落ち掛けた酒井に向かい、引き金を引いた。 『ボォーッ』 銃口から炎が燃えた。 「えっ!?」 「お客さん。…何、ビビってる?火だよ。火」 言いながら、銃口を酒井のタバコに近づけた。 違法ではあるが、辰也の父親がモデルガンを改造して作ったライターであった。 拳銃に馴染みの無い日本では、拳銃の存在自体に現実味が無い為に、本物とは中々思えない物ではあるが、元がモデルガンであるだけに、かなり精巧な代物だった。 生前、辰也の父親は腰に巻いたホルスターにこれを収めて、女性客限定でタバコの火を点けていたのである。 酒井の目に怒りの色が浮かんだ。 本来はそれほど驚く筈の無いライターなのだが、辰也の演技がリアルに怖かった。 辰也に騙されたのである。 酒井が口を開き掛けたが、辰也の言葉が速かった。
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