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「その薄汚い左手、燃やそうか?」
静かに言い放ち、ギラリと酒井を見つめた。
昔は怖いもの知らずの不良であったとは言え、辰也も三十を過ぎた大人である。
父親の残したこの店で、暴力沙汰を起こす事は当然無いのだが、酒井をうろたえさせるには充分過ぎる凄みがあった。
酒井の左手は、辰也にライターを向けられた時より、カウンターの上に置かれていた。
酒井が美加へと視線を泳がせたが、すぐに驚きの表情に変わった。
つられて、辰也も美加を見る。
辰也の口から溜め息が溢れた。
美加は口を半開きに開き、宙を仰いでいた。
つまり寝ていたのである。
「ガゴッッ……」
美加の鼻が鳴った。
「娘が見てるんだ。……程々にしとけよ」
酒井に言いながら、テーブルにある胡瓜の野菜スティックを美加の口に押し込んだ。
「ガリッ…ガリッ……」
口の中の胡瓜を噛み砕きながら美加が目を覚ました。
「ボリッ……あ…あれっ!? た…辰也!
………な…何で私はここにいる?」
慌てながら辺りを見渡す。
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