42人が本棚に入れています
本棚に追加
(ああっ!!まったく……あのバカ女!!)
辰也は心の中で悪態をつきながら、ピカピカに光るシンクを、更に磨き上げていた。
辰也にしては珍しく、しかめっ面をしている。
くわえタバコの煙が目に染みて、更に辰也の表情が険しくなった。
常連客であれば、普段、目にすることのない辰也の仏頂面は、異常事態を告げる物だった。
居心地の悪い空気に常連客の一人が口を開いた。
「あ……マスター、お勘定」
「じゃあ俺も……」
「騒々しくなって悪いな。また来てくれよ」
笑顔を作り、客を送り出しながらカウントを取った。
(………あと 二人。)
マリの予想は、ほぼ当たっていた。
辰也はカウンター席に四人分の空きが出来たら、即座に美加達をカウンター席に移動させるつもりでいたのである。
ほぼ。と言うのは、辰也の心情に起因する部分であり、そんな事はマリには当然予測など出来ないし、本人である辰也に至っては、その心情故の苦悩があった。
つまり。
その心情とは辰也が美加を口説かない理由である。
最初のコメントを投稿しよう!