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(ああっ!!まったく……あのバカ女!!) 辰也は心の中で悪態をつきながら、ピカピカに光るシンクを、更に磨き上げていた。 辰也にしては珍しく、しかめっ面をしている。 くわえタバコの煙が目に染みて、更に辰也の表情が険しくなった。 常連客であれば、普段、目にすることのない辰也の仏頂面は、異常事態を告げる物だった。 居心地の悪い空気に常連客の一人が口を開いた。 「あ……マスター、お勘定」 「じゃあ俺も……」 「騒々しくなって悪いな。また来てくれよ」 笑顔を作り、客を送り出しながらカウントを取った。 (………あと 二人。) マリの予想は、ほぼ当たっていた。 辰也はカウンター席に四人分の空きが出来たら、即座に美加達をカウンター席に移動させるつもりでいたのである。 ほぼ。と言うのは、辰也の心情に起因する部分であり、そんな事はマリには当然予測など出来ないし、本人である辰也に至っては、その心情故の苦悩があった。 つまり。 その心情とは辰也が美加を口説かない理由である。
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