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「僕は、自動販売機になる前の記憶がありません。もちろん、名前も覚えていません。あなたは、ここに来る前の記憶も残っているんじゃないんですか?」
彼は、何を言おうとしているんだ?これじゃあ、話の先が見えてこない。なぜか、苛立ちだけが俺の感情を支配していた。
「ああ。残っているよ。でも、答えになっていない」
俺が少し感情的になって、言ったせいかもしれない。彼は、絞り出すような声で言った。
「…ここは、夢の世界であって夢じゃありません」
「はあ?」
意味がわからない。俺は、夢だと思っている。彼は、そう思っていないらしい。この世界は、死後の世界とでも言いたいんだろうか。
「僕もなんて言ったら良いか、迷ったんです…」
俺は、この世界に来たきっかけを覚えていない訳ではなかった。
俺は、いつものように妄想をしていたら、ここへ来た。
何かが抜けているような感覚はある。それと今、自分がおかれている状況との関係性が見えてこない。彼が何を言おうとしているのか。俺は、推測することしかできなかった。
言葉につまってなにも言えなくなった彼に、俺は言った。
「誰かに言われたの?」
彼が訳のわからない言葉を言ったのは、そもそも誰かに吹き込まれたせいなんじゃないか。そう俺は、考えていた。
「え、ええ。僕に飲み物を補充してくれる人がいて。その人が独り言のように言ったんです」
彼は、恐い話でもするかのように言った。
「ここは、夢の世界であって夢じゃない…だそうです」
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