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「そうです。でも、僕。自分で飲み物を入れられないんですよ」
「いや、知ってるから」
俺がそう言うと、彼が乾いた笑い声を出して言った。
「ハハハ。でも、その業者さん?…でしたよね。その業者さんは、独り言のように言っていたんで、僕に教える為に言ったんじゃないと思います」
俺は、彼が言う業者の独り言について気になることがあった。
「そうなの?」
さっきもそうだ。彼が言った“この世界は夢の中であって夢じゃない”その言葉も、(飲み物を補充してくれる人)業者の独り言だと彼は言っていた。
「ええ」
「会話をしていないのか?」
「はい。会話は、していないです。僕が声をかけるとその業者さんは、早歩きで逃げてしまうんです」
「逃げたのか…」
確かに自販機が喋ったら、普通の人は逃げるだろう。けれど、俺は違った。
俺は、面白いことに首を突っ込みたくなる癖がある。その癖が原因で俺は人生につまづいたのかもしれない。今後もつまづくのだろう。でも、ここは現実の世界じゃないし、脅えることはないんだ。俺は、そう自分自信に言い聞かせた。
「はい…。残念でしたけど。逃げられてしまうんで、業者さんがいる時は声を出さないようにしているんです」
俺に声をかけたってことは、逃げられても良いと思っていたんだろうか。だが、逃げられるのは辛いことだ。
「なんで、俺に声をかけたんだ?」
「寂しかったから…誰かと話がしたかったんです」
業者に逃げられて、辛い想いをしたはずの彼が勇気を出した。
そして、俺に声をかけたんだ。彼は、もしかしたら業者や俺の他にも声をかけていたのかもしれない。彼の全てをわかることは出来ないが、俺は他人ごとではないような気がした。
「業者が来るのは、何時頃?」
「え?」
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