第1章

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 いつも家に閉じこもっているせいか、外の日差しが強く感じる。たまには、外へ行って散歩でもしたほうが良い。と母親が口癖のように言うので、近所の自動販売機へ行って飲み物を買いに出かけることにした。  交差点を渡った先に自動販売機があるのでそこへ向かうために歩いているが、いっこうに晴れることのない俺の心は、爆弾を抱えているんじゃないかと不安になる。外は、明るい光で満たされているのに、俺の心は暗い闇に包まれていた。  雨でも降れば少しはましになるのかもしれない。雨乞いをして雨でも降らせようかと考えてみだが、何もおきない。とにかく、始まることのない妄想をする。誰かに見られているような気がするから。それが、自分に対する言い訳だった。  誰かに見られている過剰な意識から、自己を防衛する。それが妄想のきっかけになったのかもしれない。  俺の頭の中では、雨が降っている。その中で女性と出逢う。そんな、物語を頭の中で想像しながら下を向いて歩いていた。  交差点が近いせいか車を走らせる音や自転車のブレーキ音がまばらに聞こえてきた。  そろそろ顔を上げないと車にひかれてしまう。そう思って、視線を目の前に向けた。  顔を上げてみるとガードレールの付近に信号機が備え付けられていた。  信号機の赤が点滅しているのに気づいたので慌ててその歩道帯の上を小走りで渡った。  ここを渡りきったら、また自分の世界に浸ろう。余計なことを考えながら、渡ったのがいけなかった。  右の方から、音が鳴っている。その音は、まるで素人が吹くトランペットの音に似ていた。  何でこんな所でトランペットの音がするんだろうと思ったその時だった。呑気に構えていた俺の体は、空を飛んだように感じた。  徐々に視界も暗くなっていく。ああ。やっと、空を飛べた。  そんな、非現実的なことを考えながら俺は、ほの暗い意識の世界にその身を沈めていった。
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