第1章

4/13
前へ
/20ページ
次へ
 とりあえず、自動販売機へ行って飲み物を買ってから、考えればいいか。異常な状況を目の前にしても、パニックに陥ることはなかった。  それよりも、楽しいと感じる。焦って現実に帰るのは、つまらないことだ。何故だか、不思議なもので俺は夢をみているのだと理解することができた。  足を交互に浮かせて、弾む気持ちを体で表現した。  端から見れば何をスキップしているんだと、影で言われるかもしれないが、ここは夢の中であって現実ではない。自分が作り出した虚構の世界なんだ。周囲には、何人かの人がいたのだが、俺は堂々とした態度で自動販売機がある場所へと向かった。  目の前には、自動販売機がある。けれども、普通の自動販売機だった。  この自動販売機に喋る機能が付いていたならば、どんなに楽しいだろう。夢の中にいるはずの俺が、妄想しているのは何だかおかしな気がしてならなかった。  ズボンのポケットから、財布を取り出そうとしたが、財布はポケットに入っていなかった。  財布を頭の中で思い浮かべれば出てくるんじゃないか。良い案を閃いたので実行にうつしてみたものの、財布がポケットからでてくる気配はなかった。  金が無いなら押せばいい。誰かが言っていたのを思い出しながら、試しに自販機の前に立って、ボタンを押してみることにした。  自販機から、ガシャンとペットボトルが出てくる音がした。  俺は右手を、取り出し口の溝にいれた。 「こんにちは」  どこからか、声がする。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加