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「ん?」
どこで、声がしているのだろう。辺りを見回しても、自販機と閑静な住宅街があるだけで、人の気配はなかった。
少し間をあけて、俺は目に見えない誰かに挨拶を交わした。
「こんにちは」
ペットボトルのふたをひねって、サイダーを口に入れる。開けたばかりの炭酸が、徐々に抜けていく音と、口の中ではじける音はどことなく似ている。サイダーをゆっくり味わいながら、自販機を見つめた。
まさか、こいつが喋ったのか。俺は、不思議そうにしながら、自販機を眺めた。
「…あの」
恥ずかしそうに呟いた自販機は、困っているようだった。
「あ。喋った」
自分の希望通りに物語が、進んでいく。小説の中を旅行している気分になった。
「一応、人間なんで喋れます」
「そうなんだ」
この自販機は、人間なのか。そう考えると不思議だった。
ややこしいことを言う自販機を自然に受け入れている自分。この柔軟性が社会でも、発揮できればいいのに。そんなことをふと思った。
一人と一機の間に流れる沈黙。自販機は、何を考えているのかわからない。俺は、自販機に向かい合って喋るのを待った。
「あの。そんなに眺められても、困ります」
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