第1章

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 表情が読めない自販機から、困りますと言われた時に自分の推測が確信に変わった。 「やっぱり、困ってたんだ」 「そりゃ困りますよ。一応、人間なんですから。こう見えても」  しゃべり方は、人と同じで機械音じゃない。男の声だった。 「今日も1日ご苦労様です」 「聞き覚えあるんですけど…なんでしたっけ?その台詞…」  可笑しなことだった。  この自動販売機で飲み物を買うと決まって言う台詞を、俺は言った。  だが、まるで他人ごとだ。過去に何回も、自分の機体から発せられた言葉がわからないんて…。そこで、彼が人間であることを、俺は認めるしかないと思った。 「やっぱり人間なんだ」 「え?あ、はい。さっきから、言ってたんですけど…信じていなかったんですね」  俺は、一つ疑問に思うことがあったので「半信半疑かなー」と言って素直な感想を述べた。  彼は、何かを表現したいのか、押しボタンの灯りを点滅させながら言った。 「そ、そんな…」  二言目には、困りますと言い出しそうな彼の言葉を待たずに質問を投げかけた。 「あと、質問したいんだけど、なんで人間である君が自販機の格好をしてるの?」   
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