第1章

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 誰かに評価されることが、ここまで嬉しいとは知らなかった。  凄いと言われたことが、俺にとってはなによりも嬉しいことだった。  俺は、抑えきれない気持ちを口にした。 「こんな夢…初めてだ」  彼は扉が開いたままでも、喋れるようだった。  彼は、驚いたような声をあげた。 「え!?」  開いたままの扉がだらしなく揺れている。彼の中を覗くと上の方に穴がある。下には、数本の太い配線。それと文字の書かれたシールが貼られていた。 「ゆ、ゆめ…じゃあ、記憶を探そうって言ったのは…」  彼は、失望したような、声を出した。 「…僕の過去を知らないから、言った言葉だったんですね…」  俺は、彼の言葉を聞いて、何も言えなくなった。  彼は、冷静になって考えたんだろう。神ならば、自分の過去も知っている筈。知らないと言うことは…。今、自分の目の前に立っている男は、神じゃない。彼は、そういう結論を出したんじゃないんだろうか。  そんなことを考え、俺はただその場に立ち尽くし、彼の中身を眺めていた。  飲料の入った容器を補充するためか、鉄板で四角く囲まれた穴があるだけで、スピーカーなどは見えない。  彼を解剖すれば、機械の基盤のようなものや、無数の配線などが備え付けられているのだろう。気にはなったが、下手に触ると、彼の身にいらぬ傷跡をのこすことになる。いや、もう心に傷を残してしまったかもしれない。俺は、考えるのをやめ、飲料の入った容器を彼の中に入れることにした。  俺は、彼を期待させたことに罪悪感を感じているのかもしれない。俺は、地面に置いていた飲料の入った容器を手に持った。  それを、鉄板に囲まれた穴へ一つずつ入れていく。彼は、何も言わない。俺の言葉を待っているように思えた。
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