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かわいい子には旅をさせよ。
かわいい子には手を掛け過ぎる。結果、何の成長もせぬまま年齢を重ねただけの人間になってしまうのではないか。ならば、心配だがいっそ旅に出そう。一人で旅をさせれば、一つ、二つ階段を昇って戻ってくるだろう。
さて、果たしてそうだろうか。
俺は違うと思う。いや、全否定するわけではないのだ。一人旅も良い。
誰も頼る人が居ない、物寂しい、けれども情緒がある。一人旅という状況に酔える。
これも素晴らしい旅の楽しみ方だろう。
しかし、昔から言うではないか。
旅は道連れ、一人よりも二人、二人よりも三人。
非日常的空間を自己完結するのは勿体無い。
誰かと触れ合ってこそ、誰かと語り合ってこそ本当に楽しめるものではないか。
そして、そしてなお且つである。
野郎だけで騒ぐ旅も勿論良い。男女混合で旅をするのも、少々面倒くさいこともありつつ楽しいことには違いない。
しかし、一番俺が行きたい旅は、例えば彼女のような――――――ふと目が合った。
猫の様な、爛々と輝く瞳が俺を映す。正面から見ると、改めて認識する。綺麗である。
スッと通った鼻筋も、薄い唇も、少し太目に整えられた眉も、緩くパーマを当てた黒髪も、どのパーツをとっても素晴らしいのである。
もはや美の理想郷。古今東西あらゆる神々が叡智を結集して、多分、三徹くらいして創り上げた芸術品。エンジェル。マイスウィートエンジェル。
いや、天使超えて神。もはや神。七福神の舟なら恵比寿さんの左後ろくらいには乗れる。
「エロいな」
神は言っている、エロいと。
なんと俺、フェロモンムンムンらしい。
神をしてエロいと言わせるとはなんたる罪深い男なのだ俺は。地獄に墜ちて業火に焼かれて尚、大気中に霧散した俺の魅力微粒子は世の女性を悩ませるのか。
嘆かわしい。実に嘆かわしいぞ世界!
恥辱を感じ、そしてこれからの世の中を憂いながら身をグネグネと悶えさせる。
「いや、キミがじゃなくてキミの目線がね」
「うん、いやまあ知ってましたけどね。むしろわざとだし。ていうか故意に、法学的には悪意があって的な」
「わけわからんな。てかマジで見るな。目線で孕みそう」
「ちょっと待って先輩。今ボイスレコーダー起動するからもう一回言って。はい、スリー、トゥー、ワン、はい言って!ほら言って!」
「アホ」
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