プロローグ

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泣きはらした今日子の目は赤く充血している。 けれども、当の本人は微笑んでいた。 通販番組の司会業で、長年つちかった微笑である。 「引き止めてすみません」 「いえ、私の方こそ、引越しの日程を勘違いしていたものですから」 「送りましょうか?」 「ありがとうございます。でも、結構です」 「そうですか……最後にもう一度だけ確認させてください」 「何でしょう?」 「二宮昇一は、二宮一族とは何の関わりもありません」 「……ええ」 「他人です」 「……ええ」 「嘘を、ついていたんです」 「ちゃんとわかっています」 「だったら、被害届を出しませんか?」 「出しません。被害は、受けていません。だって、結婚するんですよ」
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